股関節のストレッチをしましょう! 泌尿器科で股関節って、別に関係ないじゃん・・・と思ったそこのあなた。まずは騙されたと思って、生成AIにきいてみましょう。どうですか?びっくりしませんか? そうなんです。股関節と排尿障害あるいは陰部まわりの様々な不快な症状は、実は密接な関係があることが最近の報告で徐々にわかってきています。もちろん、まだまだエビデンスが足らないので、これからも研究・検討を続けなくてはならないのですが、泌尿器科の領域で筋肉とか筋膜の概念が重要視されてきたというのが、とても面白いことだなと思っています。 まず、股関節といっても、正確には骨そのものではなく、関節まわりに付く「筋肉」やその筋肉を覆う「筋膜」などが、この場合重要です。というのも、いわゆる骨盤底筋といわれる筋肉の一部は、骨盤内だけでなく、そこから骨盤の外に広がって大腿骨(太ももの骨)に連結して、股関節を動かす働きをしているのです。内閉鎖筋とか梨状筋と呼ばれる筋肉が代表的です。簡単に考えてみましょう。もし、これらのような骨盤底と股関節をつなぐ筋肉が筋肉痛になってコリ固まったとしたら?・・・股関節も硬くなるし痛いし、陰部というか恥骨の裏というかなんとなくその深いところが痛くなったり違和感があってもおかしくありませんよね? 股関節と排尿障害の関連については、人工股関節置換術術後に尿失禁が改善するというのが有名で、例えば「女性患者の64%が術後に尿失禁が改善した」、「尿失禁の種類では、腹圧性尿失禁は76%、切迫性尿失禁は50%で治癒・改善」、「尿失禁の改善は、女性だけでなく男性も同様にみられた」、「術後尿失禁の改善に内閉鎖筋が関連している可能性」などがここ10年の間にわかってきたことです。この分野は日本の研究者の功績も大きく、大変誇らしいことですよね。 一方、骨盤底という視点でみると、筋筋膜性骨盤疼痛症候群(myofascial pelvic pain syndrome: MPPS)という疾患が最近注目されていて、私も大変に興味津々で、学会で勉強させてもらっています。これは骨盤や陰部あたりの違和感や疼痛を主な訴えとして、様々な排尿障害を伴うことのある疾患で、骨盤底筋を診察すると、トリガーポイントと呼ばれる痛みの原因となる筋肉や筋膜のコリ部分があることが特徴です。このトリガーポイントは一般的な尿検査や採血、CTやMRIなどの画像検査では異常として発見しにくいので、慢性骨盤痛症候群や慢性前立腺炎などと診断される可能性があります。逆を言えば、慢性前立腺炎と診断されている患者さんの中には、実はMPPSだったという患者さんが多分に含まれている可能性があるのです。MPPSの診断には、このトリガーポイントの有無を調べる必要があるので、直腸診(肛門からの診察)、あるいは女性であれば内診(腟からの診察)を行って、骨盤底筋である内閉鎖筋や梨状筋あるいはその周囲の筋膜を直接触って、痛むところがないかを探る必要があります。そして、トリガーポイントがあれば、このコリをとるように筋膜リリースすることで疼痛が改善することが期待できるわけです。実際に行われている施設の発表では、かなり痛みはとれるみたいで本当に素晴らしいことです。このような話をきくと、慢性前立腺炎に対して前立腺マッサージが効果があったとする患者さんは実はMPPSであって、前立腺をマッサージするだけでなく、前立腺と連絡する周囲の筋膜が同時にマッサージされることで症状が改善していたのではないかと想像してしまいます。 ということで、慢性骨盤痛症候群あるいは慢性前立腺炎といわれている患者さん。あるいは骨盤あたりになんだか不快感があって、薬でもよくならないという方。自分でやれることとして、試しに股関節のストレッチをしてみませんか?座りながらでもできますよ!さっそくやってみましょう。座った状態で右脚の足首を左脚の膝上にのっけて、背筋を伸ばしたまま前屈してみましょう。右おしりが痛いですよね。この姿勢でしばらくキープです!これで右の梨状筋のストレッチができています。反対もやりましょう。自分も腰痛の改善と思って手術の合間に頻繁に行っています。この方法はあくまで一例ですが、股関節のストレッチを続けるだけで、もしかしたら骨盤のよくわからない痛みや排尿障害が改善するかもしれませんよ。レッツトライです! 土曜午前外来担当医師 森山 真吾